大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)31号・昭31年(ネ)9号 判決

原告が本訴において明渡を求めている別紙第一物件目録記載の土地が原告の所有であり、そのうち一九四四番地の宅地二三〇坪について昭和二十八年十一月二十一日原告と原告の訴訟代理人弁護士森景剛との間に売買の予約が成立し、これにつき東京法務局練馬出張所同日受付第一二八九九号で原告代理人のため右売買予約にもとずく所有権移転請求権保全の仮登記がなされたことは当事者間に争がない。被告は森景剛が右売買の予約をしたのは弁護士法第二十八条に違反するものであつて、同人は原告から本件訴訟の委任を受け得ないものであると主張する。思うに弁護士法第二十八条が「弁護士は係争権利を譲り受けることができない」と規定しているのは、弁護士の使命にかんがみその品位の保持と職務の公正な遂行を担保するためであつて、弁護士たる者はその受任した事件であると否とにかかわらず、いやしくも係争中の権利を譲り受け得ないとし、右禁止の違反に対しては刑罰を科せられるべきものとしている(同法第七十七条)ことから考えると、右法条は同法第二十五条のように弁護士が受任し又は受任しようとする事件との関係でその職務活動を制限するものではなく、右禁止に違反した係争権利の譲受は強制法規に違反する行為として私法上その効力が否定せられるべきものであるが、そのほかにその弁護士の訴訟受任行為までを禁止し又はその受任行為を直ちに無効とすべき理由はないと解するのを相当とする。従つて本件における前記係争土地の売買予約が仮に右法条に違反するとしても森景剛弁護士が本件訴訟事件を受任し得ないもしくはその受任行為が無効であるとすべきではない。しかのみならず成立に争ない甲第六号証の一、二の記載によれば原告と右弁護士森景剛とは昭和三十二年一月十一日右売買予約を解約し、同日東京法務局練馬出張所受付第二五七号をもつて前記仮登記の抹消登記をしたことが認められるから、今日においてはこの点の疑惑は解消したものというべきである。結局被告の右本案前の主張は排斥を免れない。

しからば前記原告の内容証明による催告当時被告は昭和二十七年七月分以降の賃料の支払について遅滞があつたものというべく、原告が前記内容証明郵便による催告で昭和二十八年七月末日までを期間としたのは相当というべく、右期間内に被告が現実の提供はもとより言語上の提供をもしなかつたことは前記のとおりであるから、結局本件賃貸借契約は昭和二十八年八月二日原告の解除の意思表示により解除せられたものというべきである。もつとも前記乙第二号の記載、及び原審における証人長内惣次郎の証言によれば、本件賃貸借においては当初から賃料は毎月末日払であるが、事実上は一カ月ずつおくれて支払われており、前記乙第一号証によれば契約において賃料の支払が一カ年間滞つたときは賃借人において無条件で土地を明渡すべき旨定められていることが明らかであり、これらの事実によれば被告が昭和二十七年七月分から昭和二十八年六月分までの一カ年分の賃料を昭和二十八年七月末日までに支払わないときはじめて契約解除の事由となるもののように解せられないではないけれども、一カ月ずつの支払のおくれは事実上のものであつていまだ契約の変更とまでは認められないのみでなく、昭和二十八年七月十七日の長内方における催告を経て内容証明郵便による再度の催告があつたにも拘らず、被告においてその支払をしない以上、原告のした前記契約解除の効力に影響あるものではない。

被告は原告の右解除は信義則に反し権利の乱用として無効であると主張する。被告が一カ年にわたつて賃料の支払をしなかつた事情は当時原被告間に本件土地についてあたらしい契約の交渉ないし売買の交渉が続けられたためであること前記のとおりであつて、それ自体としては必ずしも責むべきものではないが、すでにその交渉は打ち切られ、当初の賃貸借によつて事を運ぶ外なくなつたからには被告はその義務に属する賃料の支払をなすべきは当然であり、原告の両度にわたる請求にも拘らず一年分以上もの賃料の支払をしない以上、原告が契約解除の挙に出ることは正にその許された権利の行使というべきである。被告がわずか二年足らずの賃貸借期間に結局二十万余円の損料名義の金員を支払つたという事情も、必ずしも原告の解除が信義則に反し権利の乱用であることを認めしめるに足りない。原告があえて被告をして賃料の延滞に陥らしめ、これを幸いとして契約解除を策したというような特殊の事情は本件には認め難い。この点の被告の主張は失当である。

(藤江 原宸 浅沼)

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